朝から晩まで一日中、狂ったように電卓をたたき続けた。
それでも、全てが狸の皮算用に思え、不安は増すばかりだ。
桁外れな数字を前にして、この不安は等身大を忘れた報いだと、何度も自らを叱咤した。
数日前の誕生日は、天にものぼる思いだった。
青ざめた顔で数字を並べ続ける自分からは、とても想像が出来ないだろう。
あの日、夫と貯めたお金で念願の結婚指輪を購入した時は、左手の薬指にキラキラ眩しく光るこの「幸せの塊」に心が震えた。
その足で向かった結婚式場。
まさか申し込みまで行くとは、私も夫も思っていなかった。
だけど、仕方がなかったのだ。
穏やかな光に満ち、澄んだ空気の教会に二人で立った時、5年半ずっと温めてきた結婚式のイメージが一気に全身を駆け巡ったのだから。
「80万円の内、申込金の20万円はこの場で支払いをお願いしております」
そう言われた時、顔が引きつった。
支払う、という行為が今現在の私と、どうしても結びつかなかったからだ。
80万円の数字を見た時は、まだどこか他人事だったけど、20万円を今ここで払うという現実は、自分たちが汗水流して労働してきたお金を差し出すのだ、という事実とやっと繋がった。
それからの1週間は怒涛のようだった。
仕事の合間にドレスショップの人とフィッティングの日にちをやり取りしたり、決定した担当の方と打ち合わせ日のやり取りをしたりと、とにかくドタバタしていた。
不安定な足元に不安を感じているのに現実は待ってくれない。
そんな折、免許の更新で警察署へ赴いた。
私が受付する前にも後にも、たくさんの人が更新に来ていた。
あまりにも待たされるので、
「私の存在は忘れられてしまったのでは?」と不安になった。
だが、違った。
ここには緻密に計算された段取りが、しっかりと存在していたのだ。
わたしの名前は、時を経てちゃんと呼ばれた。
無事更新の手続きを終えた私は、ハッとした。
不安になっても、いつかなるようになる。世界は回り続けているのだ。
冷静になって過去の家計簿を開けば、そこには50万円弱の返済を成し遂げた痕跡があった。
わたしは、心を取り戻した。
わたしがやれることは過去のわたしが証明している。
そう思うと視界が広がった。
この1週間、掃除できていない部屋を見渡し、「まずはここから。」
と袖をまくる。
雨だけど関係ない。
窓を開け、新しい光と空気を部屋に呼び込んだ。
